イ・ビョンホンが「手に汗をかくほど興奮した」瞬間を英語で?

パク・チャヌク監督、イ・ビョンホン主演の韓国映画『No Other Choice』が韓国で公開されました。
9月末から開催されたニューヨーク映画祭では高い芸術性を評価されており、二人が受けたインタビューの模様をYoutubeで観ることができます。
筆者も大好きな俳優、イ・ビョンホンの映画制作に対する思いの言葉を、通訳を通してどのように自然な英語に置き換えられたのかを解析してみます。
リアルな会話フレーズから自然な英会話を身につけたい人に役に立てたらうれしいです。

No Other Choice

韓国タイトル
어쩔 수가 없다 (オチョルスガオプタ)
監督
Park Chan-wook(パク・チャヌク)
出演
Lee Byung-hun(イ・ビョンホン)
Son Eon-jin(ソン・イェジン)
Lee Sung-min(イ・ソンミン)
ジャンル
スリラー/ダークコメディ
公開
韓国2025.9.24/日本2026.3

あらすじ(👈おすとあらすじが出ます)

25年のキャリアを誇る製紙技術者マンス(イ・ビョンホン)は、
家族と愛犬に囲まれ、何ひとつ不満のない穏やかな日々を送っていた。
ところがある日、会社から突然の解雇通知を受ける。
「申し訳ありません。どうしようもありません。」
という冷たい一言に、彼の人生は一瞬で崩れ去る。

家族のために「3か月以内に必ず再就職する」と誓うマンス。
しかし現実は厳しく、1年が過ぎても成果はなく、
スーパーのアルバイトで生計を立てる日々が続く。
ついには、苦労して手に入れた家まで手放す危機に直面する。

追い詰められたマンスは、かつて勤めていた「ムン製紙」を訪ね、
必死に履歴書を差し出すが、班長ソンチュル(パク・ヒスン)に屈辱的に拒まれる。
「自分ほどふさわしい人間はいない」
――そう信じた彼は、ある決意を胸に行動を起こす。

――「自分の席がないなら、作ってでも座ってみせる。」

『No Other Choice(어쩔 수가 없다)』公式ポスター
『No Other Choice』ポスター(© nam.wiki)

「手に汗をかくほど気持ちが高鳴った」の英語表現

ステージでは、通訳をはさみながらモデレーター(進行役)とのQ&Aが行われました。
イ・ビョンホンがインタビューの中で作品の台本を初めて渡された時の思いを次のように語っています。

私も長いこと俳優としてやってきましたが、台本を読んでこう、手に汗をかくほど気持ちが高鳴ることなんて、そうあることではないんです。
でも今回はまさにそんな感じでした。
一刻も早く撮影に入りたいと思っていました。

今回の作品に対する思いのたけが情緒的に伝わってきてとても素敵ですよね。

同時通訳された英語版がこちらです。
筆者が実際の映像から文字起こししたものを引用しています。

I’ve worked as an actor for a very long time,
but it’s not very often that you get so excited that your hands begin to sweat as you read the screenplay.

And that was the case for me.
I couldn’t wait to shoot the film.

出典:YouTube/Park Chan-wook and Lee Byung Hun on No Other Choice/第63回ニューヨークフィルムフィスティバルにて2025年10月10日

場面は、「難しい役柄を与えられたことで監督に不満や戸惑いはなかったのか?」
というモデレーターからイ・ビョンホンへの問いかけに対する答えとして語られたものです。

彼はむしろその逆で、
台本を読む瞬間に心が高鳴り、俳優としての情熱を新たにしたというニュアンスで語っています。

これやるだけで会話がはずむ「YOU」の使い方

通訳文を読んで「自分の話なのに、なんで I と you が交互に出てくるの?」と感じた人、いませんか?

この感覚、私たち英語学習者ならごく普通の反応です。
「え? なんで I じゃないの?」ってなりますよね。

でも実はこれ、ネイティブが日常的に使う自然な話し方なんです。
前後の文脈を見ても、この通訳はとても的確でした。

通訳者が 「I」ではなく「you」 を使ったのは、彼の言葉を “共感の体験” として伝えるため。
英語では、自分の話でも “you” を使うことで「わかるでしょ?」という親しみを添えることができます。

そして最後に “that was the case for me” と締めることで、
感情の中心が再び彼自身(I)に戻ってくる。
この「I → you → I」の流れが、聞き手に自然な臨場感を与えているんです。

この用法、ぜひマスターしたい!そう思いませんか?
自分の経験を「you」で語るだけで、英語がぐっと自然になります。

「共感を得るyou」の使い方をもっと知りたい人、もうちょっと映画スターの話しを聞きたい人は下の解説付きスクリプト(抜粋)も読んでください。

3:20頃~

Q:
And it’s not the most sympathetic character as well,
so I was wondering if you approached this thinking about it,
and if you had any resentment towards the director for giving you a character that maybe was a bit difficult.

それほど共感を呼ぶキャラクターではなかったと思います。そこでお聞きしたいのですが、演じるにあたってどのように向き合われたのか、そして、監督からこのような難しい役を与えられたことに対して何かしらの抵抗感や戸惑いはありましたか?

[movie 3:48-4:47]

Lee Byung Hun:

No, I had no resentment, because when I first read the script,
I was, in fact, very excited.

いいえ、まったくありませんでした。初めて台本を読んだとき、むしろとても興奮したんです。

resentment:「不満・わだかまり・反感」という意味の名詞

感情を表す語で、怒りよりも静かなトーンの“根に持つ気持ち”を表します。

例)He felt some resentment after losing the role.(彼はその役を失って少しわだかまりを感じた。)

in fact:「実は」「むしろ」といった逆接的な強調を表す副詞句

ここでは “No, I had no resentment” に対して「実際にはむしろ興奮した」と対比をつくる役割です。

➡ 話し手の感情が予想外の方向に向かっていることを示しています。


I’ve worked as an actor for a very long time,
but it’s not very often that you get so excited that your hands begin to sweat as you read the screenplay.

And that was the case for me.

I couldn’t wait to shoot the film.

私は長い間俳優として活動していますが、台本を読んで手に汗をかくほど興奮するということは、そうそうありません。
でも今回はまさにそうでした。一刻も早く撮影に入りたいと思いました。

it’s not very often that + 主語 + 動詞=「〜することはあまりない」「めったに〜しない」

頻度を表す表現で、「not often」よりもやや感情を込めた言い方。 「そうそう起きることじゃないんだよ」というニュアンスになります。

「You」の意味は「あなた」だけじゃない!~ 「世間一般」を表すときの使い方

ここでの you は「あなた」ではなく、generic you(一般的な人)。 つまり「誰でもそうなるような」という共感を生む表現です。
この用法は、ルールや文化・社会的な習慣を説明するときによく使われます。
英語では “you” を使って、「その国では〜するものだ」「一般的に〜するよね」という柔らかい言い方ができるんです。

コースケ
コースケ

“you” って、実は「あなた」だけじゃなく「人は誰でも」という意味にもなるんだね。
自分の経験を話していても “you” を使うことで、「そういう時ってあるよね」と共感を得られる魔法の言い方だね。

so … that 〜 :結果を表す構文| 「とても〜なので、…するほどだ」=「〜するくらいに〜だ」

文全体が2つのthatが現れる二重構造になっていますが、この構文が頭に入っていれば混乱はさけられます。

so excited that your hands begin to sweat
=「手に汗がにじむほど興奮するじゃない?」

as you read the screenplay

「台本を読むにつれて」「読んでいるときに」という進行の“as”。
as you read もまた “generic you” の一部で、 「誰でも台本を読んでいるとき、そういう気持ちになるものだよね」という含みがあります。

And as for the character, he begins as a very typical head of a household.

物語の冒頭で、彼(演じたキャラクター)はごく普通の家庭を支える大黒柱として登場します。

But just because he’s put in an extreme situation,
could we justify all the dramatic decisions that he made for himself?

しかし、極限状態に置かれたからといって、彼が下した劇的な決断のすべてが正当化されるのだろうか。

I think the biggest assignment for him for myself as an actor was how to convincingly express this character to the audience.

それが、この役を演じる上で最大の課題だったと思います。

映画「No Other Choice」予告編

出典:YouTube/CJ ENM Movie版公式メイン予告版

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